Static Motion by Carl Ander
スウェーデン人写真家、カール・アンデル(Carl Ander)の作品集。アンデルは、10年以上にわたり、スポーツ、健康、セルフヘルプをテーマにした写真入りマニュアルを収集してきました。レスリングやスキーの方法から、ストレッチやマッサージの仕方に至るまで、あらゆることを教えようとするこれらの書籍は、扱う主題も文化的背景も実に多岐にわたっています。時を重ねるうちに、アンデルのコレクションは、1世紀にわたって刊行された数百冊もの書籍を含むまでに成長しました。
本書において、アンデルはこのコレクションから選んだ写真を提示していますが、そこでは本来付随していたテキストによる指示はあえて省かれています。元の文脈から切り離され、その存在理由を支えていた論理が覆い隠されたことで、鑑賞者はこれらのイメージを新たに解釈するよう促されます。この再文脈化の行為を通して、アンデルは写真に新たな意味の層を与えています。かつてそれらを支配していた実用的な論理から解放された写真は、新しい読みを誘発し、ときに不条理でユーモラスに、ときに不穏な暴力性やエロティシズムを帯びて立ち現れます。
本来の目的であった「教える」という機能は失われているものの、その教育的な力が完全に否定されているわけではありません。これらの写真は集合的に見ると、身体の動きをいかに写真に収めるかを示すマニュアルのようにも見えてきます。写真にはしばしば、動きの方向や順序を示す矢印や図的な書き込みが施されており、1枚の静止画では運動を完全に捉えることができないという事実を示唆しています。また、スキャン画像を拡大することで、網点のラスターパターンが際立ち、本書全体を貫く美的モチーフとして機能しています。
この「静止した動き」に関する選集的百科事典は、写真をドキュメントであると同時にフィクションとして捉えるという、アンデルの長年にわたる探究の集大成です。本書のデザインは、スウェーデンのデザインスタジオ「Lundgren+Lindqvist」が手がけており、彼らは本書において、従来の写真集の形式を再構築しています。一般的な表紙を設けず、最初のページから最初の写真が始まり、通常であれば裏表紙にあたる位置で最後の写真が終わります。また、奥付などの付随情報は本の中央にまとめられ、紙の切り替えによってその位置が示されています。
カール・アンデル(1991年生まれ)
スウェーデン・ヨーテボリを拠点に活動する写真家。商業的な仕事と並行して、書籍や展覧会のためのアートプロジェクトにも取り組んでいます。これまでに『ディー・ツァイト(Die Zeit)』『ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)』『ラ・レプッブリカ(la Repubblica)』『ジ・アトランティック(The Atlantic)』などに作品を発表し、東京、ロサンゼルス、オスロ、そしてイタリア各地で展示を行ってきました。前作となる写真集『コンストラクツ(Constructs)』は、2020年に「ヘヴィ・ブックス(Heavy Books)」より刊行されています。
ページ: 328
サイズ: 170 x 240 mm
フォーマット: ソフトカバー
刊行年: 2025
出版: LL’Editions